今年もあっという間の一年が終わろうとしていますね。年末恒例、忘年会の光景が街のそこかしこで見られます。「年を忘れる」と書いて忘年会ですが、私自身は忘れたくない日もありました。
今回は最近見て印象に残った映画「PERFECT DAYS」を紹介します。
「毎日つまらないな・・・」
「自分なんてどうせ・・・」
と思うような日々に、そっと背中を押してくれる、そんな映画です。
※タイトルの「世界一清潔」は個人的な感想です・・・
映画について
東京を舞台に、役所広司が演じる清掃作業員の日々を淡々と描く映画です。2023年のカンヌ国際映画祭で、役所広司は日本人俳優として「誰も知らない」の柳楽優弥が受賞して以来、2人目となる最優秀男優賞となりました。
監督は日本人ではなく、ヴィム・ヴェンダースというドイツ人。日本映画を代表する監督であった小津安二郎(1903~63)を敬愛する人だそうです(小津の東京物語は、自分も好きな映画です)
映画を少し見てもらえば分かると思いますが、今までにはない切り口、表現の映画です。なぜこれが映画になったのか? まず気になったので、少し調べてみました。
映画製作のきっかけは、渋谷区内の公共トイレを刷新する日本財団のプロジェクト「THE TOKYO TOILET」。トイレを日本が世界に誇る「おもてなし」文化の象徴として広めていくプロジェクトだそう。プロジェクトのPRのため、その活動を映像化しようという計画が立ち上がり、今回の「PERFECT DAYS」が作られたということです(映画自体は、もちろんPRだけにはなっていません)

静的な日々
私がこの映画を見終わって、まず思い浮かんだ言葉が「静寂」。老齢期に差し掛かろう年齢の男性、そして明らかに内向型に見える主人公は、無口で大人しく最低限しか言葉をほぼ発しない。家にはテレビも、スマホもない。演出用のBGMもかからない。劇中から感じられる音は日常の音。木の葉が擦れ合う音、ドアを開け閉めする音、カメラのシャッターを切る音、自販機から缶が落ちる音・・・静けさの中から浮かび上がってくる、普段は気にすることのない物音の数々。
ストーリー自体も、派手な動きはなく至って静的。東京スカイツリー近くの古いアパートで一人暮らしをする主人公。公衆トイレの清掃員をしている彼の日常を、ただ粛々と描いている。倒すべき敵も、目指すべきゴールもない。あるのは平凡な毎日の繰り返し。
――― 朝早く仕事に言って、通勤中の車の中でお気に入りのカセットテープを聞きながら現場に行く。トイレを黙々と磨き上げ、神社の境内でお昼のサンドイッチを食べる。午後にまた清掃して、仕事を終える。帰りがてら、銭湯で体を洗い、地下鉄構内の大衆食堂で酒を飲む。家に帰って、布団の中で本を読みながら、やがて寝る ―――
これほどまでに起伏の少ないストーリーで、120分の時間を映画として描けるのか、と素直に感心してしまいました。

大人だからこそ味わえる映画
ただ自分がもしこの映画を10・20代の若い頃に見ていたら、おそらく何も感じなかったでしょう・・・今40歳を過ぎて、人生というものが何となく分かり始めた時にこの映画を見て、じんわりと心に沁みるものがありました。
自分は人生を山登りに例えるのが好きなのですが、若い頃はまるで麓から頂上を目指す上り坂のよう。体力に任せて登っていく内に視界が開けていくように、日々過ごす中で自分の成長や人間関係の広がりに喜びを感じたり、初めての体験・初めての場所に心が躍ったりする。
それに対して人生の後半となる40歳を過ぎると、山頂からの下山。風景は登る時に見たものばかりで変わり映えがない。「上がる」ではなく「下がる」という行為、心理的にもどこかネガティブなイメージが付きまとう。体力的にも実は下りの方がつらい・・・ ただ見下ろすことで広がる美しい風景。そして登る時には気付けなかった植物や小動物を見つけることができたり。心に少し余裕ができて、すれ違う見知らぬ人にたまに挨拶してみたり。

映画の中で主人公が、拾った小さな植物を家に持ち帰って愛でたり、トイレに置かれた紙で見知らぬ人と◯×ゲームする和やかな場面がありますが、まさにそれと似た感覚です。人生の後半、下り坂であるけれど、上り坂では味わえなかった感情。決して派手じゃなくていい、平凡でいい。ごく普通の出来事の中にささやかな喜びを見出し、心が満たされる。大人になったからこそ感じられる機微が、この映画では表現されているように思います。
木漏れ日
この映画で、象徴的な光景があります。
平日の仕事の合間、主人公がお昼を食べる神社。緑爽やかな木々が生い茂る。見上げた先には、美しい木漏れ日の光が揺らいでいる。その情景は一日が終わる夜、主人公が眠りの中で見る夢にも繰り返し登場する。
そしてエンドロールの後に登場する英語の言葉。
“KOMOREBI”
is the Japanese word for the shimmering of light and shadows
that is created by leaves swaying in the wind.
It only exists once, at that moment.
“木漏れ日”
日本語で、風に揺れる木々の間から生まれる光と影のきらめき。
それは、その瞬間にしか存在しない。
映画の最後にこれが置かれたというのが、何か考えさせられますね。

人生で経験する様々な喜怒哀楽が、木漏れ日が映し出す光と影だとしたら。
例え今は影であったとしても、それは一瞬のこと。
風向きが変われば、影だった箇所には光が当たっている。
そう思ったら、次の瞬間にはまた影に。
はかなく移ろいゆく時間、どんなものでも大切にしたい。
そんなことを私は思い浮かべました。
この映画が何を伝えようとしているのか、後はあなたが実際に見て感じとってください。
以上です。それでは良い一日、年末年始をお過ごしください。






